ざわり。
 風が蠢く。
 冬の夜空は張り詰めた冷気のせいで凛と輝く。
 まあるい月が優しく僕を包む。
 とても幸せで、涙が溢れた。










「罪を罪と感じないココロを見せてよ。」
 そう云って僕は呼び出した彼に体ごとぶつかる。突然のことに彼は驚いたようだったけど、自分の胸に感じる違和感の方に顔を強くしかめた。
 左胸に生えるナイフの柄。『心』があるはずのそこからは、体温と一緒に赤い液体が滲み出る。そして結局、ココロなんて出て来はしなかった。
「君がどんなに言い訳をしても、それは罪だよ、絶対。」
 足元で痙攣を繰り返す彼は濁った視線を僕に向けてくる。そんな言い訳がましい事、今更されたってどうしようもない。だって君はアレだけ僕のことを苦しめたんだ。その罪を忘れたなんて言わせはしない。
「ほら、」
 静かになった彼。
「僕はこんなにも優しい、」
 苦痛が少しでも軽く済むように、一生懸命勉強した。
 君はあれだけ僕の事を苦しめたのに、僕はひとおもいに叶えた。どう、苦しまなかったでしょう。虚ろに開かれた唇から返事は無かったけど、今までの僕のように、辛くは無かったはずだ。





 僕がやった事に罪があるなら、君がしてきた事も、また罪。


 僕には罪などあるはずも無く。










 遠くで悲鳴が反響している。
 何か、あったのかもしれない。






‥了
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