学校からの帰り路、図書館へ寄った所為で帰宅時間が遅くなってしまった。昼間はまだしも、夕方の五時を過ぎると気温は冬の其れとなり、紺藍の天(そら)は夜と変わりない。視線の先に見える鎮守の杜の稜線が闇よりも濃く沈んでいた。
 夜の黒い空気が僕を取り巻き、借りてきた本で膨らむ鞄の重みを増す。自然と足が遅まった。気だけは焦る。アスファルトの道路の筈が、靴底からの感覚に伝わってこない。どこか湿った靴音が僕を追いかけているようだった。



 逢魔が刻に闇に向かってはいけない。
 此岸と彼岸の境が知らぬ間に薄れ往くから。

 足元にほら、妖かしの生を持つ漆黒が蠢く。



 曲がり角に立つ、仄暗い街燈。明滅する心細げな灯りを見つけると、僕は鉄紺の道路に描かれた生成りの円周内に逃げ込んだ。光を求めて、闇を避けて。
「もう、大丈夫……、」
「……何が大丈夫なの、」
 録音された自分の声を聴いたような薄気味悪い感触が、足元から這い上がってくる。視線を其方に向けると、僕の足首を捕らえた僕に似た何かと目が合った気がした。



 影の中の影は見えない。
 見えなければ気付かない。
 逢魔が刻の誘いは闇の中だけとは限らない。





 ずるり
 地を這う影が僕を捕らえた。






‥了
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