朝、目が醒めると、貴方の視線が無い事に気付く。
 身体を伸ばし、顔を上げ、両手で空を掴む。もう貴方は逝ってしまっていた。



 貴方が本来在るべく場所には、貴方と同じ姿はしていても、全く別の誰か。僕の気持ちを知りながら、遥か遠くで、ただ、射るような視線を遣すだけの貴方ではない。
 今居る誰かは、貴方なら絶対しないであろう優しい笑みをもって、僕を見下ろしている。
 僕の頬を撫でるその腕は、この身を預けてしまいたくなるほど幸せな感触なのに、僕の瞳から零れるこの黒い滴は一体なんなのだろう。
 僕は力無く腕を下ろし、顔を背けた。


 次々と、止めど無く零れ落ちる黒い涙。

「ああ、」

 僕は貴方を愛していたのだ。同じ姿の優しい誰かではなく、恋情の欠片も無い、激しい視線を浴びせるだけの貴方を愛していたのだ。


「有難う……。でも、僕も逝きます。」

 誰かは少し困った顔をして、それでも静かに頷いてくれた。



 やっぱり、『貴方』ではないと確信する。
 『貴方』の元へ逝かなければと確信する。


 そして、僕は逝く。
 僕の想いは足元の大地に染み込み、時が廻れば再び貴方を見つけ、精一杯腕を伸ばすだろう。届かなくても。
 伝わらなくても、ただひたすらに貴方を見上げ続けるだろう。






 太陽に想いを馳せ、その身を焦がし続けた向日葵は、夏の日差しを失い暮れ逝く太陽を追うように朽ち果てる。
 逝く夏と向日葵を彼岸花の送り燈篭が見送っていた。

 さわさわと秋の風がやって来る。






‥了
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。