僕は噎せ返るような緑色の中にいた。葉緑素の匂いに満ちた其の場所は僕の記憶には無く、其れでも尚心地好い場所にいる事を実感している。
 透明な風が僕の頬に触れ、身体の中を通って彼方へと消えて行く。幾つかの其れに自分の中身を全て洗わせながら、眼に痛い蒼色の大気を仰ぎ見た。視界は区切られているにもかかわらず蒼色の大気は限り無く、降り注ぐ黄金色の光の乱反射は僕を包んでいる。
 大気の中に突然現れた遥か高い場所を横切る黒い影は其の翼を動かす事無く、しかし確実に僕の視線を捕まえて放さない。はらはらと舞い振る羽毛は、解けない雪の様にひんやりと僕の肩に留まった。
 翼の影が消えた後も僕の眼は宙を眺めたままだった。続いて僕を楽しませてくれたのは、2対の翅をせわしなく動かしているにもかかわらず、自らの意思で翔んでいるとは思えないものの大群である。僕には感じられない程の空気の流れによって、全体が微妙な動きをする。其れだけが翔んでいるような大きな翅には鱗紛と鱗毛による極彩色の模様が描かれ、蒼色の中に映えた。



 永い永い時間をそんな場所で過ごした。たゆたう時間の流れは僕の意識を融解させ、僕が僕である事を忘却させようとしている風に見えた。





 起床プログラム作動。
 ハードディスクの中でくぐもった電子音が開始される。睡眠プログラムの終了を告げる短い作動音は、其れだけで僕を目覚めさせる効果が有る様に思えた。
 硬質プラスティックのカバーを開けカプセルから出ようとする僕の首筋に引き連れた痛みが走る。慌てて其処に手を伸ばすとビニールのコーティングが施された細いコードに指先が触れた。首筋に有る端子から無造作にコードを引き抜くと、一瞬心地好い放電が有ったような気がした。
 手にしたコードは2本。1本は睡眠プログラム用だか、もう1本の記憶が無い。コードを辿って行くと、オプション用のハードディスクに辿り着く。ディスクを開け、中からソフトを取り出す。ソフトの虹色の表面にラベルが張って有った。



ユメ~Dream Image~



極彩色の映像が直接脳に焼き付いている。






‥了
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