群青と墨色が混じり合った斑模様の天蓋から、絹糸のような細い雨が降りてくる。時折何処かの光を反射して光る雨に、最近降った流星群を思い出した。厳密に云えばその流れる星に祈った事を思い出したのだ。晴れたら直に往ってしまう君。君を引き留めたいと願った僕の想いが叶ったような気がしていた。
 一緒に居たいと願った流星群でさえ、君と見た最後の思い出になってしまうというのに。
 雨では無い、温い水滴を頬に感じながら目を閉じる。この降り方では明け方までに雨は上がってしまいそうだ。君との離別(別れ)が迫っていた。
「往ってしまうんだね、」
「君も往くじゃあないか、早いか遅いかの違いだ。」
「見送るのは辛いよ、」
「見送られるのも同じさ。」
 その言葉に、君も同じ想いでいてくれた事を知って安堵する。俯けていた顔を上げ、僕よりも少し背の高い君を見上げた。君も僕を見やる。視線を合わせた瞬間の微笑みに微かな痛みを感じながら、明日はきっと、笑って見送ろうと心の中で誓った。
 同時に天(そら)を振り仰ぐ。雨粒が消えつつあるのを感じながら、僕等は黙って朝を迎えた。
 日が昇り、足元の下草から昨夜の雨の名残が失せていく。南からの暖かい風が吹き始めた。
「じゃあ、往くね、」
「うん。」
 ざあ、と強い風が巻き上がる。目を開けていられずに伏せた一瞬、君は見送られもせず、僕は見送りも出来ず、ただ独りで往ってしまった。
 君が往った先を追うように、僕は背筋を伸ばす。
 君の傍に往ける事を願いつつ、僕は独り、此処でその時を待とう。
「流れ星への願いを此方にすれば良かった、」



 穀雨の後の澄んで柔らかく晴れた朝。
 春風は強く草原を走り、蒲公英の綿毛を舞い上げていった。綿毛を失った茎のすぐ横に、花冠を閉じた一本の蒲公英がその茎を伸ばす。綿毛を覗かせ、次の風を待って揺れていた。





・・了
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