温度の無い、針のような雨が降っている。痛みは感じなくなって久しいが、内部が放電して痺れる感覚だけが残されていた。
 此処に廃棄されてどれだけの時間が経ったのだろう。
 僕はとある家に買い取られた。その家の少年の遊び相手としてだ。幼かった少年は僕をとても気に入ったようで、片時も離さずにいた。残念ながら僕にはもう、少年の顔さえ思い出せないが。
 暫くはあった少年特有の固執も、直に薄れていく。少年は気が変わるのも早い。新しい玩具を手に入れた頃には僕の事などすっかり忘れて放置するようになった。と謂うのも、彼の乱暴な扱いの所為で僕はもう既にあちこちに不具合が生じていて、思うように遊べなくなっていたからだ。
 動かなく、動けなくなり、放置されれば不具合は加速し、やがて修理出来ない段階まで辿り着く。僕はそうして、此処へ廃棄されたのだ。
 廃棄された当初はまだ、物珍しさもあってか、通りすがりの子供や行政のリサイクル業者が近くまで寄っては来た。しかし、前者は気味悪がり、後者は再利用価値が無いと判断するとそのままになった。それも仕方ない話で、所詮、使えなくなったから物でしかないのだから。
 雨音は指令系統からのノイズと混ざって耳鳴りにしか聞こえなくなった。躯の隅々までエネルギイを送っているはずの循環装置も寿命らしい。稼働音が薄らいでいく。徐々に末端から崩壊が始まった。
 記録回路が停止する。一瞬大きな燐光(スパアク)が辺りに拡がった気がしたが、本当のところは判らない。後に残ったのは闇だけだ。有ったはずの感覚も消えて無くなった。循環装置が軋んで止まる。僕は終わった。





「まったく、まだこんな人間が出回っていたなんて、」
「腐敗が始まる前で面倒がなくて良かった。」
 路地裏の不法投棄場所にやってきた廃棄物処理業者たちが、なんの感情も無く音声を発する。日常業務的に廃棄物を車に放り込むと、すぐさまその場を去った。





・・了
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