――願わくば、彼と共に、逝けます様に







 神が生まれたことを祝う祭の闇側で

 もうひとつの祭が始まる

 神が生まれたことを忌む祭

 畏怖すべき存在を神として奉り

 人間は自らの保身を願う







 この日に生まれた僕は永遠を生きるというだけで神になった。

 暗く外気から鎖された僅かな空間。入口は中からは開かない。
 祠と言う名の石牢に幽閉され、僕は限り無く長い間存在し続けるのだ。




 まだ、周りに何もない、遠い昔の記憶。




 時は日々滞りなく流れ、風化の進んだ石造りの祠は外の風景を僕に見せてくれはした。
 湿ってひんやりとした石壁に光は全て飲みこまれ、この場の闇は変りはしなかったけど。


 周りには大きな森ができ、細い棘のような葉を茂らせた樅の大木が柔らかい音で風を揺らしているのに気付く。ああ、もう、そんなに刻(とき)が巡ったのかと実感した瞬間だった。
 しかし、時間軸から外れている僕にとっては、この先、この大木が朽ちて消えていってもただそれと気付くだけの事。少なくとも人よりは僕の視界に永く在ると云うだけだろう。


 そんな漠然とした視界を占める蝋色の葉陰に白い存在を見つけた。太く地面と平行に真っ直ぐ伸びた枝に立ち、じっと此方を覗っている。





 樅の木の上には、少年が居た――






 少年特有の好奇の瞳は逸らされる事なく僕を捕らえる。厳密に云えば僕ではなくこの石の残骸を見つめている筈だ。僕の存在を知るものは存在し得ないのだから。








 そして

  祭は祀り

   祀りは奉り




 神官と呼ばれる人間は、ただ毎年繰り返される行事としてとしか認識はなく、僕の願いなど無いに等しかった。神の代弁者である筈の彼らには、僕の姿すらその目に映すことは無い。
 何より、僕は初めから神で在ることは勿論、これから行われる祭祀の全てを望んではいないのだ。



 祭場(まつりのにわ)には、銀の燭台に燈された蝋燭と、生贄と劇薬。
 それはとても静かで荘厳な――空虚な場所で始められる。




 彼を見てすぐに気がついた。
 あの時の陽の匂いも、風の色もないけれど。
 彼はこの祠の外に見える、あの大きな樅の樹に登って、僕を見下ろしていた少年に違いない。




 少年は逃げられぬように両足の腱を切られ、目を覆う包帯。手首には枷で擦り切れた痕。
 今日、ここへ差し出される為の儀式に眩暈を感じる。


 神が生まれたというこの日に、僕の贄となる彼には、希望などなく、そして絶望すらなく。



 僕に一体どれほどの価値があるというのだろうか。







 毎年、思う

 ひとつを、願う




 ――願わくば、彼と共に、逝けます様に





 杯に注がれた劇薬を口に含むと、頼りなく横たわる彼を抱く。
 顎を押し下げ薄く開いた血の気の失せた唇の間から流し込む、劇薬。
 途端に喉の奥から噴き上がる紅い泡に目を瞑る。





 亡骸さえも手にいれる事は叶わず。





 そしてまた、来年こそはと、独り、願う。






‥了
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