何もかもを終わらせるための此処に来た。
 此処は終末の地。



 人以外の手で削られた鋭利な岩山が連なる遠景。薄墨を流したような空。
 廃墟は其処に悠然と横たわった。
 地図上の辿り着いた目的地は太陽と月の位置からも間違いではない筈である。途絶えた道がそうだと語った。
「此処は終末の地等ではない。」
 金色の眼の門番が云う。
「しかし――、」
「六分儀が示した、か、」
 錫の先についた土鈴がガロンと響く。乾燥した薄い空気の中に朗々と流れる低い音は、逆に僕の中に重くどんよりと留まる。
「終末の地に門番など要らぬ。須らく万人に終末はやってくるのだから。」
「けれど、終わらせなければ、」
「そう、結末を迎えねばならぬこともある。」
 瞬きの無い黄金の視線に、俯く僕の目には煤けて疵だらけの革靴。どれほどの靴を履き潰し、此処まで来たのか。此処が望んだ場所でなければ、捨てた足跡と苦難にどんな意味も見出せない。
 永遠ほどの永い時間と枯れた涙腺の為にも、僕は全てを終える。
 この最果ての地で。
 記憶を消し、過去を捨て、己自身さえも失い、僕を失くす。



 終わりを求め、その結果得られるものは、終末ではなく――、



 ざああああ……
 岩が風化してできた砂が、風になって吹き付ける。僅かの隙間からも侵入し内部を冒そうとする不安を外套で遮る。
 耳鳴りのような雑音が止むと、外套から浸透する空気の温度に変化が起こった。痛い温度ではなく、安らぐ温度。
 再び顔を上げると、其処に門番は居らず。そしてまた、門すらも消え失せていた。



 在るものはひとつ。
 限りなく続く道。






‥了
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