黒曜石程の鋭利さのない、水面に浮かべた墨ような闇の中。
 ひとつの罪が僕の前に横たわっていた。

 知らない。

 知らない筈は無いだろう、と声がする。その手にした証拠は罪以外を語る事は無いのだから、と。

 声につられて視線を落とすと、朱い証拠は其処に在った。離せない。僕と同化して指先を染めていた。
 其処に罪が有るとしても、その証拠が僕の手に有るとしても、僕はその罪の在処を知らない。

 知らないのではなく識らないだけだ、と声は続く。その耳に遺る息遣いを感じていない訳はないのだから、と。

 頭に響いていたのが雑音(ノイズ)ではなく、激しい呼吸だと気付かされる。誰のものなのか。僕の鼓動とは一致しない。じゃあ――。

 認識するが良い。
 知覚するが良い。

 何をして、
 何をして、

 何をしたのか。

 その結果の罪。
 罪の証拠。

 それらが何処に存在するのかを。

 白く拡がって燐光(スパアク)した視界が急速に狭まっていく。
 罪を犯した僕を、冒すのは鋭利な黒い罰。






‥了
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