明かりの差さない、この冷たい場所で、僕等は貴方と約束をしたんだ。



「願いを叶えたいのは貴方?」
「僕等を呼んだのは貴方?」
 強い想いに惹かれて其処へ導かれた僕等を見て、貴方は泣きそうな顔をして見せた。その実、その内側は漆黒の炎が蜷局を巻いているのを僕等は知っていたけど。他人(ヒト)の願いの善悪など、僕等には何の関係も無い事だからね。
「その願い叶えるよ。」
「それが僕等の存在意義だから。」
 僕等はいつものように応える。そして両側から貴方の手を握る、捉まえる。逃げられないように。
「対価が要るよ?」
「僕等が欲しい物をくれないとね。」
 捉えた貴方の指先が震えて、冷えていくのが解る。対価がどんなものなのか不安なんだろう。でも、その不安さえも僕等の食慾を煽るんだ。貴方が貪欲に願うのと同じだけ、僕等は空腹になっていく。
「難しく考える事は無いよ?」
「貴方はただ、くれると云ってくれさえすれば良いんだ。」
 貴方の想いが通じた先に、蒔かれるであろう種から成る果実を。僕等の空腹は果実(ソレ)でしか満たされないんだから。
 乾いた貴方の咽が了承の意味で鳴った瞬間、契約は成立した。



 種を蒔いたのはいつの事だったんだろう。立ち籠める甘い匂いが僕等を融かす。
 明かりの差さない、この冷たい場所で、僕等と貴方は再び向かい合った。
「時期が来たね。」
「程良く熟れて、食べ頃だと思う。」
 闇の中に横たわるのは果実。契約の実という貴方の分身。
 何も知らず、僕等に喰われる為だけに育まれた小さなその実はまだ温かく、貴方に向けて手を伸ばす。貴方はそれを呆然と眺めていたけど、不意に視線を背けた。まだ正気なんだね? 早く堕ちた方が救いがあるというのに。
「自然に割れるのを待つかい?」
「手を下すのが愉しみじゃあないか。」
「それもそうだね。」
「それじゃあ、頂いていくよ。」
 果実を手に貴方に背を向け、奥の壁の前に立つ。僕等は漸く、空腹から解放されるんだ。
「貴方が望んだ未来は甘いかな。」
「貴方が選んだ現実は甘いかな。」
 鈍い破裂音と鋭い悲鳴が響く中で、僕等は無惨にまき散らされた果肉を思う存分頬張った。果汁で両手と口の周りを真っ赤に染めた僕等が振り返ったら、貴方はどんな顔を見せてくれるだろうか。




・・了
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