晴雨儀が雪を指して久しい。
 雪花石膏の粒子のような粉雪が郷(さと)を単一色に染め上げる。空と地面の区切りを曖昧に、しかし凛と静まっている季節。



 初空月を迎えた花守の郷の、火の祭祀が始まろうとしていた。朝も夜も同じ照度のこの時季の淡墨(うすずみ)の天幕に、花火をひとつ打ち上げる。凍える季節の終わりを告げ、花の準備をするように芽吹く花芽に知らせる為だ。
 硬く閉ざした蕾を開く為に必要な温度はその火薬で、表皮を緩める為に必要な振動はその音で、花火は祭祀に不可欠なものだった。
 閨(ねや)の中で花火を待つ僕のところにも、守人たちの呼吸が流れ込んでくる。ひんやりとした冷気とつんと鼻を突く火薬の匂いと一緒に。
 近付き、行き過ぎる雪を踏み締める足音が郷の中央に集まったと感じた瞬間、明かり取りを燐光が駆け抜けた。
 破裂音と共に笛の音によく似た空気を摩擦する音が聴こえ、続いて火の粉が白い夜空を紅、藍、橙、翠に輝いて散らばる。光速と音速の違いに五感を研ぎ澄まされながら、僕は花火を全身に浴びた。









 この花火が終わったら、花弁雪が舞うだろう。そしてすべて降り尽くした時、火薬ではない花が咲く。刹那ではない、容(かたち)ある花が。






‥了
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