閨の明かり取りから差し込む陽の光に、柔らかさを感じて身動ぎする。閉ざされていた風景が外界に向かって開かれる季節。僕は寝具から顔だけを出すと、明るい方へと目線を向けた。
 天から覗く光珠はさらさらと優しい熱を降らせ、風の当たらない閨の中に徐々に集積してゆく。再び目を閉じて、其の心地良い腕に身を任せた。
 僕を微睡みから引き戻したのは静かに笑む声。再び寝入ってしまったのを諫めると云うよりは、見守る眼差しを感じる。僕は苦笑を浮かべて、漸く覚醒した。
 大気は単一色から淡色に移ろい、膚に爽やかに降り注ぐ。外に出ると其処此処から談笑が沸き立ち、芽吹いた草芽や膨らんだ花芽が朗らかに揺れていた。
 一際高い声で笑っていたのは閨のすぐ隣りに立つ、薄桃色の蕾を細い枝の先にまでつけた鉄色の幹の古木だった。二度寝を見咎められた気恥ずかしさから、古木を見上げて睨め付ける。彼は梢を震わせて破顔した。



 花守が花より目覚めるのが遅くては埒も無い。



「仰る通りです。 ――翁」
 僕の返事に微笑みで返した彼の、今にも綻びそうな蕾を嬉しく見守る優しい眼差しに季の移ろいを感じた。






‥了
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