鈍色に照る羽を並べて、
 河を渡る橋を造る禽(とり)。

 逢えない哀しみをその羽に乗せて、



 はじまる『ほしまつり』。










 耳には届かない降り続く雨の音。アスファルトは元の色を失くして久しく、浸透せずに溜まる水の膜で覆われていた。
 普段なら窓の外に在る筈の小さな川は霞んで見えず、垂れ込める雲の裾に向かって掛かる橋だけが濡れ羽色に佇んでいる。
 水嵩が増せば途端に渡れなくなる、小さく古い橋。けれど唯一、君と僕とを繋ぐ橋。

 逢いたい。

 ただそれだけの想いを胸に、僕は部屋を後にした。



 この河は渡れない。

 橋の袂で誰かが云う。
「それでも僕は逢いたい人がいる。」
 僕は誰かを見ずに、向こう岸を指差し答えた。

 水の流れが急だ。舟は出せない。

 誰かは呆れたように云い放つ。
「橋を渡れば良い。」
 そう云ってから辺りを見渡すが、目に入るのは細かな雨粒だけだった。

 何処に橋が在る。この河に掛けられる、そんな橋など在るわけが無い。

 雨よりも冷たい誰かの声が僕を突き刺す。衝撃でぐらりと崩れた僕の膝をくすぐる、濡れた下草と舞い上がる光。
 水滴に乱反射する淡い光源が、暗い川面をゆらりゆらりとたゆたう。誘(いざな)う灯の下で拒絶する水音に、僕の頬を想いが伝った。

 ざあ――。

 羽音が沸き起こる。金属の光沢を持つ濡れ羽色の禽(とり)が、頬を掠めて水面を横切る。
 胸の白い羽を並べて。黒い翼を重ねて。
 何羽も、何羽も、何羽も。
「鵲(カササギ)、」

 向こう岸で、君が手を振った気がした。










 星の無い夜の『ほしまつり』。



 烏鵲橋(かささぎのはし)を越えて、
 光る河を渡って、



 この想いを君へ。






‥了
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